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『ウルトラセブン』と臓器移植 [学問・研究]

本日の看護学校での「倫理学」講義では、「脳死と臓器移植」を扱った。
 昨年の臓器移植法の改定により、良くも悪くも「拒否表示方式」に切り替えられ、いやでも一人ひとりが関心を持たざるを得なくなったテーマだ。それは未来の看護師である受講学生たちにかぎらず、誰にとっても自分の問題となるわけだが。
 私としては学生一人ひとりが自分の頭で考えて問題に取り組めるようにすることが目的だから、どのテーマについても、自分自身の倫理(学)的な主張を説くことはまずしない。

 ただし、メディアの主流が圧倒的に移植推進論であり、これでさらに多くの人の生命が救われるようになる、という「光」の面ばかりが注目を集めている事情を踏まえて、カウンターバランスとして慎重論の意見をかなり幅広く取り上げた。あくまで、「問題の複雑さ」を知ってほしい、という観点だ。

 学生の側でも、「問題の複雑さに驚いた」というコメントや、「もし自分や家族が脳死になったら…」と言う場合を想定した意見なども見られ、それなりに考える機会にはできたと思う。

 日本での事情を知ってもらうために―諸外国と比べても、かなり賛否の論議が分かれた国だから―歴史的経緯も話したわけだが、時代事情を知ってもらうために、本邦初の心臓移植である「和田移植」が行われたのと同時期に放映された『ウルトラセブン』のエピソードにも触れた。
 第38話「勇気ある戦い」だ。基本的なストーリーは「病気の子どもに夢と勇気を与えるヒーロー」という王道路線。少年がいささか我儘すぎに描かれているのは気になるが、人間ドラマとしてもなかなかの出来といえる。
 その少年は心臓移植で生命を救われるという設定。このストーリー全体を通して、「科学技術は人間を幸せにするためにある」ことが強調され、それが一方で地球を守るウルトラ警備隊の戦いを支えると同時に、もう一方で心臓移植という形で表現される。

 この話に触れたのも、ほどなくして移植を実行した和田医師が死の判定をめぐる疑惑や功名心などを批判されるようになり、結局は不起訴になったものの、刑事責任を追及されるまでになったからだ。これを機に、日本の世論は移植慎重論に傾いたと言われる。
 その前の、移植技術が「人間を幸せにする最先端科学」としてもてはやされていた事情がよくわかる、という意図だ。
 いや、私が何よりこの手の話をしたくてたまらない、という希望があったことも、否定できないが(笑)。

 もとより、『セブン』は、いやウルトラシリーズ全般に言えることだが、科学技術の発展を無邪気に賛美するようなドラマではない。「地球人が科学的な探査のつもりで衛星やロケットを打ち上げたことが、他の宇宙人には侵略行為として映る」「破壊兵器のテクノロジーを強大化することで地球を防衛しようとすれば、宇宙規模の軍拡競争を招きかねない」などのエピソードもあり、科学・技術の進歩に対する批判的なまなざしも、十分に内在化させた作品だ。前作『ウルトラマン』でも、「科学の進歩の犠牲として見捨てられた宇宙飛行士が、モンスター化して地球に帰還し、人類に復讐を企てる」といった話があったりする。
 また、時代が平成に入ってから製作された『ウルトラセブン』の新作シリーズでは、しばしば環境問題がメインテーマとして扱われたりする。

 典型的なヒーローもののようで、科学の存在理由や正義と悪、人の心の闇など、子ども心にも深く考えさせる要素がしばしば含まれている。それが『ウルトラマン』『ウルトラセブン』『帰ってきたウルトラマン』をはじめとするウルトラシリーズが、特撮番組の「古典」たりえている理由なのだろう。
 むしろそういう『セブン』だからこそ、当時の時代状況が伝わる、というべきところだ。
 講義ではもちろん、軽く言及したにとどまっているが、ウルトラシリーズを通して考えさせられることというのは、実は多面にわたる。
 今日のウルトラシリーズの新作でこのテーマを扱ったら、どのような物語が作れるだろうか。

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肝臓移植について

はじめてコメントいたします。
腎臓移植や肝臓移植をキーワードに調べていたところ、こちらのサイトへたどり着きました。
助かる命がそこにあるのなら、少しでもお役に立ちたいと臓器移植に関していろんなサイトを閲覧しています。
少しでも多くの人たちを助けたいと考え、微力ながらも行動しています。
こちらのサイトは参考になり大変助かりました。
ありがとうございました。
by 肝臓移植について (2011-02-10 16:13) 

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